国際会計基準は、大企業のもの!?
私事ですが、4月より単身赴任で宮城県仙台市に住んでいます。民間企業勤務に比べ大学の教員は自由になる時間が圧倒的に多いのが魅力です。ところが、要求される成果もそれなりにあります。自由な時間をそれにどう配分するか、時間配分の方法にとまどっている今日この頃です。
さて、今回は、国際会計基準について書きます。
「国際会計基準は、上場企業が対象でそれも連結ベースが中心となる。さらに、適用の時期も決まってないのに、何を大騒ぎする必要があるのか?」といぶかしく思われている方も多いと思います。この見方は、一面では正しいのですが、かといって、国際会計基準をめぐる議論を無視していては、その背景で進んでいる会計や経営に関するとらえ方の変化を見落としてしまいます。今回は、制度としての国際会計基準ではなく、その背景で進んでいる会計と経営に関する変化に着目していきたいと思います。
■ 国際会計基準(IFRSs)への注目の背景
最近、雑誌や書籍も多く販売され、いろいろ勉強されている方も多いと思いますが基本的な点を整理したいと思います。国際会計基準とは、InternationalFinancial Reporting Standars (略して、IFRS)の日本語読みで、他に4つある指針や基準を総称したものです。そのため、IFRSsとも表記されます。
世界の会計基準を国際会計基準に統一しようという機運が生まれた背景の一つは、”米国の凋落”があります。国際会計基準が注目される以前、世界で使われている会計基準は、”世界に冠たる”米国会計基準をはじめ複数の会計基準が乱立する状態にありました。米国SOX法のきっかけとなったエンロン事件で、米国会計基準に対する信頼が大きく揺らぎ、会計基準の国際的統一の気運が高まったと言われています。
米国会計制度への信頼性後退は、あくまで会計基準統一の契機に過ぎず、本質的には、企業価値を計るモノサシとしての会計を統一しようという要求の高まりがあったからです。資本(金融)市場のグローバル化が進み、有力企業もグローバル展開する中で、企業の業績を計る会計基準が各国ごとに異なっていては、企業に対する正しい評価が出来なくなります。会計基準の国際的統一は、歴史的必然ともいえるでしょう。
■ 国際会計基準と日本基準の違い
「国際会計基準が適用されると、貸借対照表や損益計算書など財務諸表の名前が変わる! 当期純利益の表示がなくなる!」などが、日本基準と国際会計基準の違いとしてインパクトを持って語られていますが、本質的な違いは別のところにあります。
本質的な違いとして認識すべき点を2点書きます。
(1)細則主義から原則主義へ
日本や米国の会計基準は細則主義(ルール・ベース)といわれ、国際会計基準は原則主義(プリンシプル・ベース)であると言われています。日本などの会計基準では、会計処理の詳細な規定が設けられており、そのルールに従って財務報告を行うことになっています。ところが、国際会計基準では原則だけが示されており、細目は企業が主体性を持って決定することが求められています。
なぜ、このような会計処理を採用したかを説明する必要が出てきます。経営者に説明責任が問われてくるのです。
(2)損益計算書重視から貸借対照表重視へ
日本基準では、会計期間の収益と費用の差を利益ととらえる「収益費用アプローチ」を採用していますが、国際会計基準では資産と負債の差を利益ととらえる「資産負債アプローチ」をとっています。そのため、損益計算書より貸借対照表を重視しています。資産の増加=企業価値の増加ととらえるからです。
■ 経営者が対応すべきこと
日本の会計基準は、9割がた国際会計基準と同じになっていると言われています。ところが、それは会計処理の方法だけにすぎません。前項で述べたように、その根底にある考え方は大きく異なったままです。会計処理の方法がどのように変わるかは本質的な問題ではありません。その背景にある企業経営における会計の役割変化こそが重要な点です。これは、上場、非上場に関係なくすべての経営者が押さえておくべき点にほかなりません。
内部統制への対応においても、同じことが問われましたね。会計処理の選択について、経営の説明責任が問われるというのは、内部統制報告制度と同じ流れに他なりません。
国際会計基準がいつ適用されるかを注目するよりも、会計に対する考え方の変化を理解する必要があります。
参考文献:「国際会計基準完全ガイド」日経BP社 「国際財務報告基準(IFRSs)
の実務ガイド」監査法人トーマツ編 税務研究会出版局