ITを活用した京都伝統産業再生の試み

今回は、私が最近お手伝いした「ITを活用した京都伝統産業再生」の試みについてお話しします。みなさんもご存じのように、京都の伝統産業である西陣織や京友禅などは、後継者難や環境変化によって厳しい状況を迎えています。その中で、多くの生き残りや再生の試みが続けられていますが、今回はその1つの試みである「伝統産業におけるトレーサビリティ導入プロジェクト」の取り組みを紹介します。

●伝統産業におけるトレーサビリティ導入
トレーサビリティは、食の安全を保証する目的で広く導入が進んでいます。伝統産業におけるトレーサビリティ導入は、着物や帯など最終製品の生産工程・経路、職人さんの情報などを公開することにより、その製品に対する信頼と品質を保証しようというものです。また、購入後のクリーニングや補修などの際も、どのような作業を行っているかを公開し、顧客の安心感をめざしています。
さらに、単に工程・経路を公開するのみでなく、伝統産業で使われている”ことば”の標準化も行い、用語解説も公開しました。西陣織や京友禅は、帯やきもの・呉服や和服、広い意味での「きもの」など、様々な言葉があり、専門的な特殊用語が多数あります。これらの用語を分かり易く解説することにより、トレーサビリティへの理解を助けようとしています。

●伝統産業におけるトレーサビリティ導入プロジェクトの取り組み
職人さんの手作業が中心となっている伝統産業にITを活用すること、しかも、トレーサビリティを導入することは容易なことではありません。
トレーサビリティ導入には、技術的な課題と運用面での課題を解決する必要があります。技術的な課題とは、生産や流通に係わる情報を収集する情報システムの導入、そこで使用する製品コード、工程コードなどの共通化を指します。
運用面での課題は、生産から販売、補修などプロセスの標準化、用語の共通化と定義、参加各企業の役割分担と責任の明確化などです。さらに、プロジェクト参加企業が共通の目的意識を持ち、協力し合うことが前提であることは言うまでもありません。
今回のプロジェクトでは、2つのシステムを構築しました。
(1)インターネット上に商品の生産・加工の工程や技術・原材料・産地や正しい品質表示などの情報を共通の加工台帳(カルテ)として購入した顧客に公開するシステム
(2)各企業に導入するシステムである、注文から加工工程・販売・アフタフォローを管理するシステム
これら2つのシステムが相互に連携し、加工から販売・アフタフォローに至るトレーサビリティ情報の公開を可能にしています。

●プロジェクトを成功に導くもの
このプロジェクトを成功に導いた一番重要な点は、プロジェクトに参加した各経営者の強い意志であったと感じています。京都伝統産業を取り巻く厳しい状況を何とか克服し、後世に伝えていきたいという使命感に近い意志を実感できたのが、私にとってプロジェクトに参加した最大の成果でした。
次に重要なのは、企業間の連携です。ビジネスプロセスやコードの標準化などの作業は、参加企業間の信頼がなければ実現できるものではありません。企業間連携にITを活用することは、「IT活用ステージ」から見ても最上位のレベルであり、大企業でも容易なことではありません。むしろ、中小企業の自主的な連携だからこそ出来たといえます。
最後に指摘しておきたいのは、私たちITコーディネータなどの専門家の役割です。中小企業にはITの専門家が居ないのが通常です。また、経営に役立つITを企画するのは専門家にしかできない作業です。今回のシステム化は、トレーサビリティと社内システムを連携させるという大がかりなシステムですが、必要な機能を絞り込むことにより安価に構築できたと思っています。これらの方向をアドバイスするのもITコーディネータの仕事だと思います。

参考資料
平成19年度京都ブランド・新分野開拓事業:
「伝統産業におけるトレーサビリティ導入プロジェクト」報告書