ビジネスプロセス再考
今回のテーマはビジネスプロセスです。
私事ですが、私は2019年3月末で宮城大学を退職し、4月から京都情報大学院大学というIT専門職大学院でERPコンサルタントの育成に取り組んでいます。
今回のテーマは、私の新しい仕事とも関係しています。
ERP(Enterprise resouce planning)と聞くと、古めかしい印象を持つ方が多いと思います。確かに、ERP:企業資源計画という概念は20年以上前に生まれERPパッケージも以前ほど注目されなくなりました。
今はデジタルトランスフォーメイション:DXの時代ですから・・
しかし、今回はあえてDXの時代における”ビジネスプロセス指向”の役割を書きたいと思います。
■ ビジネスプロセス指向
ビジネスプロセスとは、「1つ以上のことをインプットして,顧客に対して価値のあるアウトプットを生み出す行動の集合」(M.Hammerら)であると定義されています。
従来からの販売や製造,顧客サービスなど業務機能に着目した組織構成ではなく、ビジネスプロセスに着目し,その運用を自律的に変更していくことによって、より質の高い顧客サービスを生み出すことができるとの認識から生まれています。
ITCの戦略情報化企画においても、経営戦略を立案しそれを実行するビジネスプロセスを構築するというのが一般的な認識としてありました。既存ビジネスの変革の方向性を示し、その変革ドライバーとしてITを導入するというものです。ITの導入とビジネスプロセスの変革は一体のモノとして認識されてきました。
しかし、昨今のデジタルトランスフォーメーションにおいては、ITの役割が大きき変わってきています。新しいタイプのITは、今や新ビジネス創出と同一に捉えられています。そこでは、「デザイン思考」のような新たなビジネスを生み出す”発想”が重視されるようになっています。
このような新たなIT環境においては、従来型の”ビジネスプロセス指向”役に立たなくなったのでしょうか?
■ ビジネスプロセスに着目した新たな顧客価値創造
プロセス指向の特徴は、顧客志向にあります。既存の商品やサービスであっても、その届け方を変革することによって新たな顧客価値を生み出すことができるという発想です。ビジネスの効率化や標準化に目が向きがちですが、プロセス指向の本来の目的は顧客への新たな価値提案に他なりません。
企業の基幹業務である販売物流、生産管理、財務管理、人的資源管理などは、どの企業でも大きな差がなく安定的に稼働することが重要であるとの認識は間違いではありません。しかし、それらプロセスの再構築あるいは再編成が新たな顧客価値を生み出す可能性にも着目する必要があります。
一つの例を示します。
「ゲーム・チェンジャーの競争戦略」(内田和成著)では、新たな競争戦略の類型の1つとして「プロセス改革型」を示しています。その内容は、製品やサービス・もうけの仕組みは同じでも、自社の仕事の流れやバリューチェーンを見直すことで顧客に新しい価値を提供することです。
その身近な例として、「俺のイタリアン・フレンチ」を紹介しています。”俺のシリーズ”の特徴は、食材やシェフは高級レストランと同じでも提供方法を変える(立ち食い)ことにより「高級レストランと同じ料理を驚くほどの低価格で提供する」というあらたな価値を提供したことです。
古い例ですが、Amazonの書籍ネット通販なども自社の仕事の流れを再構築したことで顧客に新たな価値を提供した事例といえます。
これらは、提供する商品やサービスは同じでも提供方法を変える=ビジネスプロセスを再構築することにより従来には無い新たな顧客価値を生み出した事例といえます。
■ 古くて新しいデジタルトランスフォーメーション
デジタルトランスフォーメーションという用語は歴史が浅く、使う人によってその定義が異なっていることもあります。私の理解では、①既存ビジネスの変革による新たな顧客価値を創出する、②新規ビジネス・ビジネスモデルの創出、③それを実現する組織変革、などとして整理できると思います。
私がこれまで述べてきた”プロセス指向”はその一類型に他なりません。
DXの時代に、ERPがカバーする基幹業務とビジネスプロセスの役割を見直してみませんか?
<参考文献、URL>
・内田和成「ゲーム・チェンジャーの競争戦略」(日本経済新聞出版社)
・藤原正樹「事務管理論からBPMへの発展」(宮城大学事業構想学部紀要、2010)
注:NPO法人ITコーディネータ京都 メールマガジンから転載
https://www.itc-kyoto.jp/2019/07/08/ビジネスプロセス再考-藤原-正樹/