東日本大震災復興支援と”きっかけ食堂”
今月12月11日で、東日本大震災から8年9ヶ月になります。
日本は災害の多い国ですから、今年秋の豪雨災害など多くの災害に苦しめられてきました。その際によくクローズアップされるのが地方の過疎化という課題です。
今回は、東日本大震災からの復興支援をテーマに、地方と消費地をつなぐビジネスについて考えたいと思います。
■ “きっかけ食堂”という活動
はじめに、京都の学生達の震災復興支援活動として6年前に始まった”きっかけ食堂”という取り組みについて紹介します。
きっかけ食堂とは、東北の食材を使った料理やお酒を提供し、その味を通して、毎月11日だけでも東北や震災について考える「きっかけ」をつくりたいと、2014年5月に立命館大学の学生三人が立ち上げた団体です。その後、中心メンバーが卒業した後も何代かにわたって引き継がれ、5年以上も継続しています。
NHK京都が地元の番組で何回か紹介していたようですので、京都地元の方はご存じかもしれません。
現在は、東京、仙台、名古屋、島根など全国8拠点に拡大しており、今年10月にはクラウドファンディングを通じてNPO法人化を達成しました。
「東北支援をしたい」「今からでも東北のために、できることをしたい」との思いを共有・継続し、NPO法人化を機に「東北の魅力と『多様な関わり』を提案するコーディネーター」をめざしています。
月1回の食堂開催とはいえ、食材の調達から料理の準備、当日の運営など大変な労力と人的ネットワークがないと出来ない事業です。中心メンバーと話してみると、しっかりとしたネットワークと運営システムができあがっていることを感じます。
被災地の復興に向けた志(こころざし)に共感し、その思いを何代かにわたって継続している学生達の活動にはあらたなビジネスの可能性が宿っているように思います。
■ 東日本大震災から8年-復興に向けた課題
次に、東日本大震災からの復興状況について触れていきます。
復興庁が発表している「復興の現状と取り組み」(2019年11月)によれば、震災から8年を経て、復興の現状は次のようになっています。
漁港92%、水揚げ73%、水産加工施設96%が震災前の状況に復旧しているとのことです。実際に東日本大震災被災地の沿岸部を移動すると、道路の整備はほぼ完了しており、真新しい工場や商業施設などが目に入ってきます。ハード面の整備は着実に進んでいます。
他方で、これら地域住民の生活を支える産業面はどうでしょうか。
先の資料によれば、現状の売り上げが震災直前の水準以上まで回復した企業の割合は50%弱であり、なかでも津波被害を受けた沿岸部の重要産業である水産・食品加工業においては、わずか30%でしかありません。
また、これらの企業が現在の経営課題として掲げているのが、「販路の確保-開拓」、「新製品等の開発」というあらたな市場・顧客開拓の課題です。
このように、「ハード面の復旧はほぼ完了しつつあるが、経済活動の再建は道半ばである。」と復興の現状を総括することが出来ます。
さらに、震災前から指摘されてきた「地域の過疎化、地場産業の衰退」など地域が抱える課題はより顕在化してきているといえます。
■ 地方と消費地を結ぶビジネス
東北は多様な資源の豊富な地域ですが、地元だけで消費する”地産地消”に頼るには地元の市場規模が限られているため限界があります。他の消費地とつながることで産業を維持していく仕組みが必要となります。
私は、東日本大震災からの復興に向けた取り組みとして、被災地の企業と消費地の企業が連携し商品開発や販路開拓を行うことが被災地企業の市場拡大に必要であると主張してきました。私は復興に向けた強い志(こころざし)を持って事業に取り組む沿岸部の経営者の方に大きな可能性を感じています。
被災地の企業とその志(こころざし)に共感する消費地の企業を結ぶビジネスの仕組みを作ること。多様な形でその仕組みが出来ていけば、地域の課題解決の方向も見えてくるのではと思います。
<参考文献、URL>
・NPO法人 きっかけ食堂 https://kikkake-syokudo.org/
・復興庁 「復興の現状と取り組み」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/20131029113414.htm
・東北経済産業局(2018)「第8回グループ補助金(中小企業等グループ施設等復旧整備補助金)交付先アンケート調査(平成30年6月実施)の結果」
https://www.tohoku.meti.go.jp/s_cyusyo/topics/181010group.html
・藤原正樹「東日本大震災から8年-復興課題の再整理」(2019年度 一般社団法人地域デザイン学会 第8回全国大会予稿集)
NPO法人 ITコーディネータ京都 メールマガジンから再掲
https://www.itc-kyoto.jp/2019/12/09/東日本大震災復興支援と-きっかけ食堂-藤原-正樹/