震災から4年–復興を考える

■印象に残った3つの話
東日本大震災からもうすぐ4年になる。今年は、阪神大震災から20年の年でもある。東日本大震災からの復興を考えるとき、阪神大震災の経験は重要だ。
一昨年、東日本大震災からの復興を研究する一環として、神戸の中小企業を訪問した。その時に伺った話の中で、特に印象に残っていることが2点ある。
その1点目は、震災から3年目からが正念場になるということだ。
復興特需が終わり、通常の生産、販売活動のサイクルが始まる。その時に、独自の市場を築けているかどうかが分かれ道となる。神戸では、倒産する企業が増加したのが3年目以降とのことであった。神戸の中小企業経営者の方、支援機関の方が異口同音に言われていたことが印象に残っている。東北ではどうであろうか?
2点目は、復興に向けた取り組みの反省として、元の姿に戻ろうとしていたことは間違いであったということだ。
震災で破壊された街や店舗、工場を元の形に戻したいと思うのは当然であるが、震災の前後で環境は大きく変わり、単純に元に戻ることはできない。元の形ではなく、新しい形を求めるべきであった。
さらに、東日本大震災被災地の中小企業経営者の方から伺った話で最も印象的であったのは、「もう、震災復興で商品は売れない」という反応である。これは後ろ向きの発言ではなく、消費者に復興支援という動機が無くても売れる競争力ある商品を作っていくという決意に他ならない。
この3つの話から、復興のこれからを考えていきたい。
■産業の復興状況
復興庁が発表している「復興の現状(平成26年11月13日)」によれば、水産加工施設は80%が復旧し、漁業の水揚げは震災前の68%(数量)に復活している。工場や店舗などハード面での復旧は進んでいる。他方、事業再建に必要な人材不足、販路の確保など、多くの問題を抱えている。現状の売り上げが震災直前の水準以上まで回復した企業の割合は、40%にとどまっており、なかでも津波被害を受けた沿岸部の重要産業である水産・食品加工業においては、わずか19%である(図)。

東日本大震災は、東北太平洋側沿岸部の産業基盤そのものを根こそぎ破壊した。東北各県は消費地としての規模は限られているため、首都圏など大消費地と結ぶサプライチェーンの役割が重要となる。それは物流網だけでなく、生産・加工・流通に関わる企業群が存在して初めて機能することになる。たとえば、漁港が再建されても、水産品加工に必要な工場、冷凍倉庫、生産地卸の機能が再建されないと、漁港はその機能を果たすことが出来ない。
このようなサプライチェーンの機能を担っている企業の多くは中小企業に他ならない。これら中小企業の復旧が震災復興にとって重要な課題なのである。
■新たな販路開拓に向けた取り組み
震災から4年目を迎える今日、被災地中小企業の最大の経営課題は、販路の開拓である。多くの被災地中小企業は、震災により販路を失った。工場の再建などで震災前の生産高を確保しても、従来の取引先は存在せず、新たな販路開拓を求められている。新たな販路開拓とサプライチェーンの再建は一体のものである。
ここでは、新たな販路開拓に向けた取り組みとして3つの試みを紹介する。
(1)新たな流通仲介業者の取り組み
従来の流通ルートにとらわれず、被災地と東京など大消費地をつなぐ新たな流通チャネル構築のための取り組みが進んでいる。
(2)復興ファンド を通じた消費者と被災地企業経営者のつながり
被災地復興応援ファンドとは、単なる義援金ではなく、再建に向けた事業資金として小口資金の出資を受けるしくみである。出資者と被災地の事業者が顔の見えるつながりを実現しており、出資者がそのまま顧客として、出資した企業の販路開拓に貢献しているのが特徴である。
(3)新たなネットビジネスへの取り組み
被災地中小企業のネット販売への意欲は拡大している。地元のボランティア団体が運営するモール、YahooやGoogleなどが取り組んでいる復興支援ネットショップなどには、多くの意欲的な中小企業が参加している。
ここで紹介した3分野での取り組みは、被災地の中小企業が連携して新たな販路開拓を行っていく上で大きな可能性を持っている。第1に注目すべき点は、被災地事業者の復興に向けた強い志(こころざし)が事業に取り組む基礎となっている点である。被災地事業者の志とそれを支援する全国の消費地の事業者、個人が呼応した取り組みとなっている。第2に、被災地と全国の消費地の事業者が連携することにより、新商品企画や新たな販路開拓の事例が生まれていることである。
ここで紹介した事例は、まだ事業規模が限定的であり、多くの課題を併せ持っている。しかし、大きな可能性を持った取り組みとして、これからも注目していきたい。
注:「みちのくIT経営支援センター」機関誌:MITBAC通信 第6号(2015.2) より転載