ITは人の創造性を増すか
最近、社会人大学院生の方々と「ITは人の創造性を増すか」というテーマで議論しました。興味深い内容でしたので、議論の一部を紹介します。
一つの代表的意見は、「ITは間接的に人の創造性を増す」という見解です。単純な仕事をITが代替えすることで人が創造的な仕事に就くと言い換えてもいいでしょう。
この点は初歩的なIT活用法という印象がすると思いますが、案外このような効果は大切です。私は、中小企業のIT活用の現場を多く見てきましたが、人材不足が大きな経営課題である中小企業にとっては特に有効です。限られた人的資源を創造的な仕事に振り向けるためにルーティンワークは徹底して機械化するとの考えを持っている中小企業経営者は多くいます。
もう一つの議論は、そのものズバリ、ITが人間の創造性を増すという点です。
「ITが創造性を増すのではなく、創造性がITの可能性を引き出す」、「ITが創造性を増すのではなく、ITを使って情報を得た人の創造性が増す」等の興味深い意見がありました。 これらの議論の背景には、IT環境の急速な進化があります。
■ 人の仕事の代替えから、意思決定の支援、コミュニケーションの支援へ
企業など組織に於けるIT(情報技術)の役割は、人の仕事を代替えし省力化を進めるところから始まりました。次に、情報を集め分析することから人間の意思決定に必要な情報を提供する機能が注目されました。近年のビッグデータもこの流れの延長にあります。
さらに、人々のコミュニケーションの支援として、情報の交換や共有を効果的に行う側面が拡大してきました。SNSなどのソーシャルメディアはその代表格と言えます。
このコミュニケーション支援という側面は、ITの機能としては単純な部類に入ると思いますが、私たちの社会に与える影響は絶大なものがあります。
■ クラウドソーシングと集合知
先の議論では、クラウドソーシング(Crowdsourcing)と集合知に注目が集まりました。
クラウドソーシングという用語は、群衆を意味するクラウドと業務委託(ソーシング)を組み合わせた造語で、インターネットを利用して不特定多数の人に業務を発注したり、受注者の募集を行うこと、また、そのような受発注ができるWebサービスをさします。
クラウドソーシングは、個人など企業外部の経営資源を安価に利用できるというコスト面のメリットが注目されがちですが、本当に重要な点は、外部のユニークなアイデアと接することで、イノベーションを促進する役割です。まさに、組織の創造性を増すという点です。
クラウドを自社の製品開発に活用した例としてP&Gの事例は有名ですし、日本国内では、良品計画の「くらしの良品研究所」がよく知られています。
もう一つは、集合知への注目です。
「グーグルが何十億というWebページから、探しているページをピンポイントで発見できるのも、正確な選挙結果が予測できるのも、株式市場が機能するのも、すべて『みんなの意見』のたわものである。多様な集団が到達する結論は、一人の専門家の意見よりもつねに優る・・・」(ジェームズ・スロウィッキー「『みんなの意見』は案外正しい」)という書籍を読まれた方もあると思います。
こちらも、ビジネスへの適用が始まっています。
ウエザーニューズ社の天気予報が気象庁の天気予報よりよく当たることは知られています。よく当たるその秘密は、「ウエザーリポート」と呼ばれる個人会員がスマートフォンから寄せる天気リポートです。全国550万人の会員が寄せるリポートを集計すれば、より正確な天気予報が可能になります。人の五感がスーパーコンピュータを凌駕しているのです。
■ 人間の創造性は増すか?!
ここまでの話だけで、”ITは人の創造性を増す”といいきるのは無理があります。しかし、これまでは出来なかったことが可能になっていることは事実です。
この変化をどのように理解するか?
まだ、しばらくは”観測”が必要なようです。
みちのくIT経営支援センターブログより転載
http://www.mitbac.org/2014/02/18/itは人の創造性を増すか/