内部統制と経営者の責任
●内部統制実施基準(公開草案)の発表
金融庁企業会計審議会より、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準~公開草案~」が昨年11月21日、公表されました。12月20日まで、「パブリックコメント」の形で広く一般から意見を募集し、1月中旬には実施基準を確定するとのことです。
昨年、6月に成立した「金融商品取引法(略称:投資サービス法)により、2008年4月からはじまる会計期から上場企業においては内部統制が義務づけられました。
実施基準は、企業が投資サービス法に対応した内部統制を構築・評価するための実務的な指針に当たるため、企業の実務担当者から公表が待たれていました。
この基準案では、「業務の流れ図」「業務記述書」「リスクと統制の対応(いわゆるリスク・コントロール・マトリクス)」という、内部統制評価の前提として作成すべき文書を例示しており、これにより企業における内部統制準備が一気に加速すると言われています。
これら文書化の作業は、短期間での対応が必要なため外部の専門家の支援が不可欠となります。監査法人、コンサルティング会社、ITベンダーなどは、ちょっとした”内部統制特需”に沸いています。
ちょっと待て!
内部統制対応は、文書化作業に集約していいのでしょうか?
もっと大切なことを忘れていないか?
●内部統制の本質
内部統制がなぜ、このように注目されなければならないか?!
内部統制そのものはこのメルマガでも何度か紹介されていますので説明は省略しますが、このように注目されるようになった出発点は、米国で2002年に成立した企業改革法(いわゆるSOX法)です。法案を連名で提出したポール・サーベンス(Paul Sarbanes)上院議員、マイケル・G・オクスリー(Michael G.Oxley)下院議員にちなんで名づけられたSOX法ですが、わずか1日の審議だけで1週間後には成立した異例な法律です。その背景には、世界中を驚かしたエンロンやワールドコムの不正経理事件があったことはご存じの通りです。
米国のSOX法、日本の金融商品取引法の中心テーマは、”投資家の保護”に他なりません。不正経理や企業不祥事で失った投資家の信頼を回復し、金融資本市場の健全な発展を実現しようというものです。企業が公表する財務報告の信頼性を確保するには、その作成プロセスそのものを透明化し不正がないことを経営者が宣言することが必要だとしています。
このように、米国のSOX法、日本の投資サービス法は金融資本市場の信頼回復を主な目的として制定された法ですが、ここで忘れてならないもう一つの重要な点は”経営者の責任”です。
企業における内部統制責任は当然にも経営者にあります。投資サービス法は、内部統制報告書の虚偽に対しては、経営者に重罰を科し、虚偽によって株主が被った損害については、企業が損害賠償を負うことも明記されています。
内部統制の有効性を確保するためには、経営トップの誠実性・倫理観というものが重要視されるのです。
●経営者の責任
内部統制対応は、ややもすると文書化対応に矮小化されがちですが、企業の側で最も問われていることは、経営者の社会的責任の明確化です。
この点について、最後に、経営者自らの発言を紹介します。
「企業の社会的責任は株式上場企業にとって最重要な課題です。この当たり前のことを、当たり前のように実行するのが経営者です。これは当たり前のことです。そして、経営者は会社が法律規範に抵触した場合、知らなかったでは済まされない。L社の裁判で、『おれは知らなかった』というのは・・・ 知らなかったでは済まないのです。」
「会社が起こした問題は経営者の責任であることを認めて、経営者が本当に真摯に反省して直すしか解決の道はない。それから問題を隠ぺいしたり、責任逃れをする経営者は憶病かつひきょうな経営者であると私は思います。」((株)メガチップス会長 進藤晶弘)注
<参考文献>
システム監査学会「JSSAニュース」No.112
注:進藤氏は、メーカー勤務の後、(株)メガチップス、(株)ビジュアルコ
ミュニケーション、(株)メガフュージョン社を創業され、いずれも上場会社
に育てられました。
現在メガチップス社の会長の傍ら、大阪市立大学大学院創造都市研究科のア
ントレプレナーシップ分野教授として起業家人材育成にも貢献されています。
http://www.itc-kyoto.jp/2012/03/04/内部統制と経営者の責任-藤原-正樹/
より再掲